「躯脂滑婦裸慰羨門」と書いてクシカツフライセンモンと読む。この文字面を考えたのが昭和12年、『五味八珍』開業の年である。創業者・岡田繁雄さんは画家への道を断念、好きが高じて料理の世界に身を投じた。当時串カツといえば大衆的な食べ物の代表選手、女性が一人で食べに行けるイメージは皆無。それなら「女性がひと口で食べられる料理を」ということで食材を徹底的に吟味、それを組み合わせ、下味を付ける、またコースで提供するなど、現在のオリジナル申揚げの原型はすべて、この昭和12年から始まったといえる。
「いまお出ししているメニューはほとんど先代が考えたものばかりです。ソースも3種、スパイスの7種もみんなそうです」と話すのは二代目の岡田滋太郎さん。店内には一切品書き無し、おまかせをひたすら食す。まずは豚ヒレのカツが出る。続くコテレット(鶏肉の包み揚げ)から鯛の子(豚肉で包む)、ピーマン(豚肉ミンチにチーズを混ぜ詰める)、鱧のしそ巻き、三つ葉(白身魚で巻く)、餅(中にエビミンチを詰める)など約20数種食べたのだが、どれも食材そのままというのは数えるほど。パン粉は細かいめをもう一度ミキサーにかけメッシュに振るう。だから口あたりはあくまでソフトで、また揚げ油がヘット100パーセントなので香ばしい。三ツ葉は口に入れた瞬間、白身の甘さが充溢したかと思えば、次に三ツ葉の青々とした香りが一気に弾けると、こちらの予想をはるかに凌駕するしかけで、驚くことしきりである。それが全串にわたり、先代の偉業がいまもなお新鮮さを失わず、「お客さんも三代目」と継承されているのだから、このオリジナル串の嚆矢は充分に現役なのだ。
(あまから手帖02年04月 ごちそう串揚げより)